おしりや足の痛み・しびれは「坐骨神経痛」?
症状と治療法、セルフケアを解説
おしりから足にかけて痛む、腰をそらすとしびれる。そのようなつらい症状は、もしかすると坐骨神経に何らかの問題が起こっているのかもしれません。今回、おしりや足などに出る痛みやしびれなどの症状の原因や関連する病気、治療法やセルフケアについて、久我山整形外科ペインクリニックの佐々木院長にお伺いしました。
突然、おしりや足がズキズキ、ビリビリ…
痛みやしびれの原因は?
おしりから足にかけてズーンと痛む、腰をそらすとしびれるといった症状のことを、坐骨神経痛と言います。
ぎっくり腰は重い物を急に持ち上げたなどの突発的な動作によって起こることがありますが、坐骨神経痛の場合思い当たるきっかけはなく、「よくわからないけど突然痛くなった……」とクリニックに来られる方が多いです。症状の程度は人それぞれで、比較的軽い症状の方もいれば、自力で動けなくなってしまうほど強い痛みを感じる方もいます。
特定の動作や姿勢で発症するという医学的エビデンスはありませんが、長年の臨床経験から何らかの動作や姿勢が刺激となり、突然症状が出るということはあり得ることだと考えています。
坐骨神経痛を引き起こす2つの病気
足腰やおしりの痛み、しびれ、筋力の衰えなどの症状を坐骨神経痛と呼んでいますが、症状を引き起こす病気は別にあります。その代表的な病気が「腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)」と「椎間板(ついかんばん)ヘルニア」です。
腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)
背骨の中には、脳から続く神経である脊髄が通るトンネルがあります。これを脊柱管と言います。この脊柱管が狭くなることで脊髄を直接圧迫し、坐骨神経痛の症状が起こってしまうのです。脊柱管は年齢とともに狭くなるため、60代・70代・80代の方に起こりやすいという特徴がありますが、脊柱管が狭くなる原因は加齢以外には明確なことはわかっていません。
腰部脊柱管狭窄症が原因の場合、安静時には症状がなく、背筋を伸ばして立ったり歩いたりすると足に痛みやしびれなどが生じて歩けなくなることが多いです。前かがみになったり腰かけて休息したりすると症状は緩和されます。
椎間板ヘルニア(ついかんばんヘルニア)
ヘルニアは腰椎と腰椎の間のクッションのような役割を果たす椎間板の組織が飛び出てしまう病気です。椎間板が脱出すると脊柱管の中にある神経が圧迫されて、坐骨神経痛の症状が起こってしまうのです。椎間板ヘルニアは20代・30代・40代の比較的若い年齢層に起こります。また、たばこに含まれるニコチンが椎間板を変性させる作用があることもわかっており、たばこは発症原因の一つです。
病院・クリニックでの診断について
坐骨神経痛の診断では、主にレントゲンやMRIの検査を行います。レントゲンでは骨折や腫瘍などの有無を調べ、MRIでは椎間板や神経の状態などの詳細を確認し、患者様が訴える症状や年齢なども考慮しながら総合的に診断します。
一つ注意すべきは「腰部脊柱管狭窄症」「椎間板ヘルニア」以外の病気の可能性も考えられるということです。例えば、腰椎の下部には神経の束がありますが、そこに腫瘍ができる「馬尾腫瘍」でも坐骨神経痛と同じ症状が起こります。「きっと坐骨神経痛だから大丈夫」と自己判断してしまうと腫瘍を放置することになりますので、腫瘍の可能性を排除するためにも気になる症状があるなら一度整形外科を受診することをおすすめします。
坐骨神経痛の対処法は?
病院での治療法は?
坐骨神経痛は自然と症状が治まる方もいますが、つらい症状が長く続く方もおり、中には日常生活がままならないほど悪化するケースもあります。つらい症状があると気持ちまでふさぎ込み、気分が落ち込むと活動量が低下してさらなる不調を招くことも。そうならないようまずはつらい症状をとって体を楽な状態に導いてあげることが大切です。
痛みやしびれを取り除くためにクリニックで主に行うのが薬物療法です。薬物療法では痛みを抑える内服の鎮痛薬や、患部に局所麻酔薬やステロイドを注入するブロック注射を行います。痛みの感じ方や程度は人それぞれですので、患者様の訴えによって使用する薬剤や薬剤の量などを変えます。
鎮痛薬の役割
鎮痛薬は表面的な痛みを抑えるものだと思われがちですが、痛みを引き起こす炎症を抑える役割や、痛みを感じるセンサーを鎮める役割があります。坐骨神経痛で強い痛みを感じる状態を例えるなら、ボッと突然火が燃え盛ったイメージです。燃え盛る炎に鎮痛薬という消火剤をまくことで炎症を和らげ、痛みを抑えることができます。
薬物療法を行うことで、多くの方は症状が緩和されていきますが、中には症状がなかなか改善しない方、あるいは病状が進行して歩きづらくなってしまう方もいます。歩行困難な状態まで至った場合、手術が必要になることもあります。
薬物療法以外の選択肢
「患部を温めると楽になる」「マッサージしたり引っ張ったりするといい」など患者様によって症状緩和につながる処置は様々です。ですので、患者様のご要望に応じてリハビリや温熱療法、マッサージ、牽引といった物理療法を取り入れることもあります。
また、患者様から「〇〇成分は体に良いですか?」「市販薬を飲んでもいいですか?」と聞かれることがあります。その際にはご自分の体に合う方法で害がなければ問題ありませんよ、とお答えしています。市販薬であってもご自身に合うと思われるならば使用して良いと考えています。
重要なのは患者様に合った対処法を選択することですので、患者様の「効いている」という実感を大切にされると良いでしょう。ただし、ほかの持病やすでに飲んでいる薬がある場合は医師や薬剤師に相談のうえで薬を選んでください。
坐骨神経痛治療のゴール
坐骨神経痛の治療で重要なことは、患者様のつらい症状がなくなり普段通りの日常生活が送れるようになることです。クリニックでの治療も「痛みがくすぶってきたらまたやりましょう、消えたらやめましょう」という感覚で、患者様の痛みと寄り添いながら進めています。人によって有効な対処法は異なりますので、できるだけ早くご自分に合った方法を見つけるのが良いでしょう。
坐骨神経痛を根本的に改善させるには、骨を削るなどの外科的手術を行い神経の圧迫を取り除くしかありません。それでも体の老化は止められませんので、根本的な改善にこだわるよりも、坐骨神経痛の症状改善をゴールとすることが現実的だと言えます。
今日から実践!家でもできるセルフケア・予防法
坐骨神経痛は何かきっかけとなる動作や姿勢があるわけではなく、発症の原因も明確ではありません。そのため患者様に「これをしたら(しなかったら)予防できる」とお伝えするのは難しいのですが、適度な運動やバランスのとれた食事など、健康的な生活習慣を心がけることはどんな病気を予防するのにも大切だと思います。
運動はラジオ体操を
痛みやしびれの症状があると、その部分を動かさなくなってしまいます。長期間動かさないままだとその部分の関節や筋肉が固まり、いざ動かそうとすると関節や筋肉まで痛みが出て、ますます動かしづらくなってしまいます。そうならないよう無理のない範囲で日常的に体を動かしましょう。
患者さんによくお勧めするのはラジオ体操です。ラジオ体操は誰もが知っている運動で、毎日無理なく続けることができます。痛みが強く出ている時には無理して行わず、痛みが和らいだ時に始めます。初めから張り切って思いきり動かすと筋肉を傷める原因になりますので、ゆっくりと大きな動きで全身を動かしてみましょう。血行がよくなると筋肉や関節の動きもよくなりますので、入浴後など体が温まっている時に行うのも良いでしょう。
食事
食事や栄養素についてはあまり詳しくありませんが、神経痛の治療薬としてビタミンB12の薬剤が保険適用で処方されることがあります。ですので、ビタミンB12には一定の効果があると言えるのではないでしょうか。市販薬の中にはビタミンB12が入っているものも有りますので、ご自身に合うようであればお試し頂くのも良いと思います。
食事面について私からお伝えできるのは、朝昼晩とバランスの良い食事を心がけることです。年齢とともに骨や筋肉は衰えていき使わなければその分老化は進みます。骨や筋肉を良好に維持するためにも3回の食事で栄養をしっかりとりましょう。なかなか食事では必要な栄養がとりにくいようであれば、ビタミン剤などで補うのも良いと思います。
まとめ
どんなに痛くてもきちんと治療やセルフケアを行えば、痛みやしびれなどのつらい症状を緩和させることはできます。これ以上良くならないとあきらめず、症状がなくなるように前向きに対処していきましょう。調子のいい日は運動のために外出をしたり、好きな食事をとったりして気分転換をしながら、症状と上手に付き合っていくことがポイントです。坐骨神経痛予防のためにも、いつまでも健康でいるためにも、日々の生活習慣を見直してみると良いでしょう。
〒153-0042 東京都目黒区青葉台3-2-12
【注文・お問い合わせ】受付時間/9:00〜17:00(年中無休)※年末年始を除く
【健康相談室】受付時間/9:00〜17:00(平日のみ)